将棋の内藤國雄九段が先日引退されました。
ちょうど1000敗目でした。
1000敗と聞くと、すごく負けているんだなと思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、これだけ負けられるというのは、強い証拠でもあります。
なぜかと言いますと、将棋には順位戦というものがあるのですが、内藤國雄九段は引退されるその日まで、この順位戦で戦うことができたからです。
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将棋界の格付けランキング「順位戦」
将棋界には、厳然とした格付けがあります。
それが順位戦と呼ばれるものです。
名前の現す通り、将棋棋士の順位、つまりランキングを決めるために行われます。
将棋界には「名人」を頂点として、A級、B級1組、B級2組、C級1組、C級2組という5つのクラスがあります。
引退された内藤國雄九段は、最高クラスであるA級に在籍されていたこともあります。
引退された当時、厳密に言いますと、3月31日までは現役として扱われますので、C級2組に在籍されていました。
内藤國雄九段は現在75歳。
この年齢まで現役を続けられたことだけでも充分に凄いことなのです。
将棋界に定年はありません。
強ければ、いつまでも現役を続けることができます。
ただし実力主義の世界です。
結果を出さなければ、プロ野球でいう「戦力外通告」のようなものがあります。
内藤國雄九段が在籍されていたC級2組で、成績が下位になることが3回続きますと、その下にある「フリークラス」というクラスに落ちてしまいます。
このクラスに落ちてしまうと、かなりの好成績を一定期間おさめることができないと引退勧告がされてしまうのです。
期限は10年。
10年というと長いようにも感じますが、上に上がる条件がとても厳しく、この条件をクリアした棋士はわずかしかいません。
なので、例えば25歳でこのフリークラスに落ちてしまうと、35歳で引退というケースもありうるのです。
内藤國雄九段の場合、仮にフリークラスに落ちたとしても、あと10年は現役を続けることができたのです。
ただ、内藤國雄九段はその道を選びませんでした。
引退を決意された理由は、健康の問題が大きいようです。
膝と腰を悪くされているようで、将棋の対局で座布団に座っているのも辛かったそうです。
将棋というのは、頭脳の格闘技です。
集中力、忍耐力などが必要です。
しかし健康に問題があるとその2つともが低下してしまいます。
一手のミスが負けに繋がる勝負の世界。
ここではそれが致命的になってしまうのです。
現役を続けることは、制度上は可能。
ただ、自分の満足する将棋を指すことができない。
これが内藤國雄九段が引退を決意された理由ではないかと思います。
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内藤國雄九段と米長邦雄さんのエピソード
内藤國雄九段とおなじ「クニオ」という名前で、ライバルでもあったのが、米長邦雄永世棋聖です。
数年前にお亡くなりにならしましたが、現役時代は名棋士としてご活躍されていました。
現役引退後は、日本将棋連盟の会長をされていました。
そんな米長邦雄さん。
とってもユーモア溢れる方だったようで、
内藤國雄九段とのエピソードが本当に面白いです。
あるエピソード。
将棋の対局には「持ち時間」というものがあります。
持ち時間というのは、簡単に言いますと「自分が考えられる時間」のことです。
この持ち時間は将棋の棋戦によって違います。
例えば、テレビの棋戦などは、持ち時間が10分~20分くらいで短いです。
タイトル戦になると、2日制で、持ち時間8時間など長時間になるものもあります。
普通の対局では、3~5時間くらいのものが多いです。
さて、そんな持ち時間ですが、これを全部使ってしまいますと、一手指すのに1分以内という将棋のルールがあります。(テレビの将棋では30秒以内が多いようです)
この持ち時間が少なくなってくると、棋士は焦りを感じるようになります。
将棋には記録係という、将棋の棋譜を記録する係がいます。
棋譜というのは、将棋でどんな手を指したかを記録したものです。
ビジネスで例えると議事録のようなものでしょうか。
それで、持ち時間が少なくなってくると、棋士は記録係に自分の残り時間を聞くようになります。
これは次に指す一手に考えられる時間を把握するためです。
例えば、残り時間が30分ある場合と、残り時間が5分の場合と、残り時間がなくて1分以内に指さないといけないのでは、全く状況が異なってくるからです。
ここで米長邦雄さんです。
普通の棋士は「残り何分?」と聞くのに対し、米長邦雄さんは「僕の命はあと二分ですね」なんてふうに聞くのです。
それは長考(一手指すのに長時間考えること)のときも同じです。
普通の棋士は「今の一手は何分使った?」と聞くのに対し、米長邦雄さんは「私は何分楽しみましたか?」
と聞いたりするのです。
しかも、米長さんが負けそうな場面でこのようなユーモアのある言葉を言われるのです。
これには内藤國雄九段も対局中にもかかわらず、思わず笑ってしまったそうです。
将棋の対局というのは、普通は無言でピリピリとした緊張感があるものですが、こんな対局もあるんですね。
とっても素敵なエピソードだと思いました。
加藤一二三九段のストーブ事件
別のエピソード。
同じく将棋の棋士で、現在ではテレビにもよく出演されている加藤一二三九段。
この方もとても面白い方で、熱い方で、破天荒な方という表現がぴったりの方です。
そんな加藤一二三九段が米長邦雄さんと対局をされたときの話です。
その対局のときはとても寒かったようで、対局室にはストーブが置かれていました。
そして対局中、加藤一二三九段は米長さんのほうにストーブを向けたことがあったのです。
普通の棋士でしたら怒ってしまうところですが、米長さんは違います。
記録係に「ちょっと向きを変えてくれないか。僕の優秀な頭脳が狂っちゃうよ」と言われたのです。
内藤國雄九段いわく「将棋の対局中にこんな名言を出せる人間は他にはいない」とのことです。
内藤國雄九段は、米長邦雄さんのことを「不思議な魅力を持った男だった」とおっしゃっています。
内藤國雄九段の今後
そんな内藤國雄九段ですが、自分が将棋棋士として生きてこられたことにとても感謝されているようです。
将棋棋士というのは、座って仕事ができるし怪我をすることもない。
新聞に名前は載るけれど、人気商売ではないから、周りの人に気づかれることもない。
会社に勤めていると、上司や部下との関係で悩むものですが、棋士は先輩にはもちろん挨拶をしますし、礼儀を重んじますが、対局中は平等です。
先輩だから遠慮する棋士など一人もいません。
将棋にはルールがあります。
将棋の駒を動かしていい範囲、持ち時間など、先輩だから有利なルールがあるわけではありません。
そして完全な実力主義の世界。
厳しくもありますが、実力があれば若くても上の地位に行けます。
お金も稼ぐことができます。
現在名人の羽生善治さんは10代で初めてタイトルを獲得してから、現在に至るまで、ほぼ全ての年で年収1億円以上を手にされています。
そして、羽生さんほど強くなくても、上でも述べた「順位戦」で、一定の成績を修め続けることができれば、内藤さんのように75歳になっても、それ以上の年齢になっても現役を続けることができるのです。
将棋の棋士は対局以外には、時間を拘束されることが、ほぼありません。
なので対局がある日以外は、完全に自由です。
ただその分、自分を律することが必要になってきます。
いつ寝てもいい、いつ起きてもいい。
何を食べてもいい。
何に時間を使ってもいい。
このような状況だと、自分を律することができないと、次第に将棋の実力も落ちていってしまいます。
そんな将棋棋士の長所も短所も含めて、内藤國雄九段は将棋棋士という生き方が好きだったのでしょうね。
正確には内藤國雄九段は、まだ現役です。
正式に引退されるのは2015年3月31日です。
ですので、4月1日からは「内藤國雄九段」ではなく「内藤國雄さん」になられるのですね。
そんな内藤さんですが、引退後は詰将棋をつくりながら、のびのびしみじみと将棋の世界を眺めていきたいと
おっしゃっています。
内藤先生、75歳までの将棋棋士としての現役生活、お疲れ様でした。
そして、長い間将棋ファンを楽しませていただき、本当にありがとうございました。
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